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神経症

1.神経症とは



 神経症とは、心因性に生じる心身の機能障害で、器質的なものによるものではなく、特有の症候群や状態像を示し、精神病、心身症、パーソナリティ障害などとは違うことで診断される。

 もともとはカレンが、現在よりも遙かに広い概念として提唱したのが始まりである。カレンは全ての疾患を①熱性疾患、②神経疾患、③消耗性疾患、④局所性疾患に分け、さらに②神経疾患を②①卒中・麻痺、②②化不良・心気症、②③踏病・てんかん・ヒステリー・心悸亢進・呼吸困難、②④幻覚妄想を示す精神病の4つに分けた。その後、器質的神経疾患、進行麻痺、てんかん、内因性精神病、内分泌障害などが独立した疾患として神経症から外れる中で、19 世紀末以降にシャルコー、ジャネ、フロイトらによる心因性の注目と、心理機制の解明に基づく神経症理論や神経症の定義・分類が行われ、今の「神経症」の概念が成立することとなった。

2.神経症の理解

 神経症は、抱え込んだ葛藤を思ったように処理することができず、それをカモフラージュすべく象徴的な形で神経症症状を発現させ、自分をごまかすとともに周囲にアピールする手立てして利用する。春日(2021)は、そのドラマチックさに着目し、「治りたがっているが、治りたがらない。」といった矛盾した状況に陥るという。



3.様々な神経症

(1)現実神経症

 神経症になるほどの無意識的葛藤はないが、日々の葛藤が主な原因となって不安症状や心気症状を中心として生じたものを現実神経症という。

(2)強迫神経症

 強迫症状を特徴として自らも悩んでいる状態で、精神病や脳器質性の障害は否定することができる場合をいう。思春期から青年期にかけて発症することが多いが、小児期に一過性の軽い強迫症状を示すことが多い。発病後は、ほとんどあらゆる種類の強迫症状を交代的・並列的に示したり、単一症状的に経過したりする。環境の変化によって症状が動揺することが多く、うつ病との関連が指摘されている。

 強迫神経症は、強迫的性格の基盤の上に発達することが多い。強迫性格は、堅苦しく、柔軟性に欠け、几帳面で型強く、杓子定規な性格傾向(≒フロイトのいう肛門性格)であるが、内面的には、自信が持てず、気が小さくてびくびくしており、過去の出来事にいつまでもとらわれ、これからのことは常に驚異に感じている。シュナイダーのいう自己不確実性やクレッチマーのいう過感性と重なる部分が多い。

(3)抑うつ神経症

 抑うつ神経症は、悲哀、抑うつ、不安、外界への興味の喪失、攻撃性の内向などの精神症状のほかに不眠、食欲低下、性欲低下などの身体症状が見られるが、内因性のうつ病に比べて軽症なのが特徴である。それ以外にも、不安が強く、ストレスと関連して症状の同様や変化が見られ、対象喪失が発病や経過に影響を与えていることが認められる。しばしば、強い空虚感と対象に対する貪欲なしがみつきも見られる。

(4)神経症性うつ病

 内因性でも体験反応性でもないうつ病の一つで、抑圧された神経症的葛藤に原因の求められるうつ病のことである。フェルケルによれば、幼児期の葛藤が抑圧された結果、それに関連した観念や状況と対峙することができず、自分の無力さに悲壮感を生じさせてうつ状態にいたるとのこと。多くの場合、親子関係が障害され、やさしさ、庇護、信頼、安全性などの欠如、拒絶、厳格すぎること、残忍、粗野、放任などが見られる。また、性のタブー視、甘やかし、家族内の冷たい戦争などが抑うつ神経症をより発展させることになる。

(5)戦争神経症

 戦争時、軍隊内で発生した神経症の総称である。一般の神経症と学問上は同じ。日本では1945年まで戦時の軍隊に発生したとして戦時神経症の名称を用いた。

(6)退却神経症

 社会生活から選択的退去・逃避を一定期間にわたって続ける神経症のことである。行動面の障害が主症状で、不安や抑制などがほとんど目立たない。高校生や大学生に見られる特徴的な否精神病性の無気力状態や、会社員に見られる理由のはっきりしない無気力・無関心状態などを一括して記述したものである。

(7)不安神経症

 フロイトは、従来の神経衰弱から不安を主症状とする神経症を一類型として独立させて不安神経症とした。

 フロイトは神経症を、①現実神経症と②精神神経症に分け、①現実神経症に①①神経衰弱と①②不安神経症を含め、②精神神経症に②①ヒステリーと②①強迫神経症を含めた。フロイトによると、①現実神経症は、現実的な葛藤に基づいて出現するとしたのに対し、②精神神経症は、早期からの生活史上の抑圧された葛藤が象徴的な形で出現するとした。

 ①②不安神経症は、浮動性不安、不安発作、予期不安とされ、中でも不安発作が特徴的である。突如として動悸息切れ、胸部の締め付け、めまい、冷や汗、吐き気、振戦その他が出現し、しばしば死の恐怖を体験する。この不安発作を嫌がり、予期不安のために単独の外出をおそれたり、乗物恐怖や臨場恐怖を伴うこともある。

A.予期不安

 広い意味で直面せざるを得ない困難な状況を前にするとき人間誰にでも生じる不安状態のこと。とはいえ、予期不安というときには、より狭く神経症的な場合を指す。

(8)離人神経症

 シルダーは、離人症は精神内界の反映で、自我が自己の変化を知覚し、以前と比べて自分がすっかり変わってしまったと感じる状態であるという。一方で、ギーゼは離人症はしばしば出現する非特異的もので、これを中核症状として、精神病的症状を示さず人格水準の低下も認められない神経症群に属する症例を離人神経症と記載した。