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色々なうつ病

1.色々なうつ病



 うつ病とされるものはたくさんある。使われている「うつ病」もあれば、すでに使われなくなった「うつ病」もある。

(1)心因性うつ病

 心因性うつ病には、狭義の概念と広義の概念がある。狭義の概念は、もともとJ.ランゲが提唱したもので、①内因性うつ病、②反応性うつ病、③心因性うつ病の3つに分類される。②反応性うつ病は、抑うつに至るきっかけに遭ってうつ状態を生じさせたものである。「そりゃあ、仕方がない。」と了解できる。それに対し、③心因性うつ病は、抑うつに至る明確なきっかけはなく、もともと抑うつを引き起こさないはずの心因によってうつ状態を生じたものをいう。「え、そんなことで?」抑うつ状態に至る。これはH.フェルケルの神経症性うつ病やP.キールホルツの消耗性うつ病と重なる。

 一方で、広義の心因性うつ病は、身体因性うつ病、内因性うつ病に対するもので、反応性うつ病、神経症性うつ病、異常な抑うつ的発展などを含んでいる。

(2)神経症性うつ病

 H.フェルケルによると、神経症性うつ病とは幼児期の葛藤が未だに残されており、依然として対峙できない自分に悲壮感を抱いて生じるうつ状態とされる。多くの場合、親子関係が障害され、いつまでも過去の傷を引きずっている。内容的には抑うつ神経症と何ら変わらない。

(3)抑うつ神経症

 うつ状態とは、抑うつ、不安、興味・関心の低下、制止のほか、精神症状として、罪悪感、自殺念慮など、身体症状として、不眠、食欲低下、性欲低下、知覚過敏などがある。日内変動が見られることも多い。そもそも抑うつ神経症は、内因性うつ病に比べて軽症である。また、不安が強く、ストレスと関連して症状が変化する。特に対象喪失などが発病や経過に影響することが認められている。

 なお、抑うつ神経症は依存性パーソナリティ障害や境界性パーソナリティ障害などのパーソナリティ障害を伴うことが多いとされる。

(4)反応性うつ病

 反応性うつ病とは、対象喪失など抑うつが生じることが了解できるうつ状態のことである。抑うつの内容は、きっかけとなった出来事に集中し、それが薄れると抑うつも薄れ、やがて消える。「そりゃあ、仕方がない。」と了解できる。抑うつ反応に比べると、抑うつ症状が重い。内因性うつ病とは異なり、自分自身について悲しんだり、絶望したりせず、むしろ外に向かって反抗する。攻撃性は(自分自身にではなく)きっかけをつくった人物や出来事に向けられるのが特徴といえよう。

 厳密にいえば、幼少期からの葛藤や神経症的な症状があれば、神経症性うつ病と判断することもできるが、実際にはそれほど区別されることはない。

(5)抑うつ反応

 神経症の一つで、神経症性抑うつや適応障害(短期抑うつ反応や遷延性抑うつ反応)に含まれる。抑うつにさせられる出来事があり、それによって直接生じる抑うつ状態をいう。抑うつの内容は、出来事そのものであり、通常の悲哀よりも強く、ときには精神病水準にも至る。しかし、そのきっかけとなる出来事がなくなると抑うつも消える。

 重症なものを反応性うつ病と呼ぶこともある(が、その区別はあいまい)。

(6)遷延性抑うつ反応

 遷延とは、本来あるべき一定の期間がなんらかの原因によって長引いていることを意味している。通常、うつ病は一定の期間に限定されるが、「遷延性」の場合は、予後の良くないうつ病ということをいう。遷延性うつ病と慢性うつ病はしばしば混同され、両者を合わせて難治性うつ病という。

(7)軽うつ病

 内因性うつ病の軽症型。自律神経うつ病、仮面うつ病と重なる概念である。精神症状よりも身体的愁訴の方が主で、その内容は、だるい、疲れやすい、食欲がない、頭が重いなど。

 いわゆる不定愁訴。

(8)警告うつ病

 H.ラウターが提唱した概念。癌などの悪性疾患が見つかる数週間から数か月前にうつ病が先行して見られることをいう。

(9)仮面うつ病

 うつ病に伴って生じる身体症状が前面にあって、抑うつ気分などの精神症状を隠している場合をいう。V.クレールが、仮面うつ病と呼んでから広く用いられるようになった。もともと、抑うつなきうつ病とよばれていたものと同じである。身体的な不定愁訴は多岐にわたるが、身体症状(仮面)の背後にうつ症状が隠れている。

2.うつ病の分類

(1)症状によるうつ病の種類

A.メランコリー型

 重症のうつ病の一つ。ほとんどすべての活動で喜びが全く感じられなくなる。早朝覚醒、過度の焦燥または気力の減退、食欲不振または体重減少、過度の罪悪感などの症状が見られる。

B.緊張病性

 全く動かず硬直して見えたり、神がかりになったように見えたりする。

C.二重型

 長期にわたる軽度の慢性うつ症状が続いた後、大うつ病エピソードが始まる。新たなうつ病が加わったのか、単にうつ病が悪化したのかは、はっきりしていない。

D.焦燥型

 落ち着いていられない。不安を伴ううつ病の重症の型か、単極性と双極性の「混合性」と考えられる。

E.非定型(いわゆる新型うつ病)

 従来型うつ病は、自罰的で、楽しんだり面白がったりする意欲が失われるが、新型うつ病は、他罰的で、嫌な場面から逃れさえすれば好きなことを満喫することができる。非定形うつ病、逃避型抑うつ、退去神経症、未熟型うつ病、恐怖症型うつ病、ディスチミア親和型うつ病など、ほぼ同じ概念のうつ病は多数報告されている。

F.精神病性

 現実検討識が失われたうつ病。幻覚が生じ、死んだ方がよいという声が聞こえる。身体が腐るといった妄想が生じる。自殺の危険性が高く、統合失調症と誤診されることもある。

E.統合失調感情障害(分裂感情障害)

 統合失調症と気分障害の症状が合わさったもの。現在は気分障害に分類するのが適当と考えられている。

F.偽単極性

 軽躁病エピソードがないにもかかわらず、双極性障害の特徴を示すうつ病。単極性のうつ病と誤診して抗うつ薬を処方すると、軽躁病エピソードや急速交代型の障害を生み出す。

(2)発症時期によるうつ病の種類

A.産後のうつ(PPT)

 出産後3~6か月の間に現れる大うつ病エピソード。家族の支えがなかったり、家庭内に問題があったりすると、産後のうつになる可能性が高まる。

B.季節型情動障害(SAD)

 気分障害の中でも季節により変動するうつ病。10~1月に非定形型のうつ症状を発症し、3~4月になると気分が改善し始め、夏には軽躁状態になる。冬眠と同じパターン。

C.月経前不快気分障害(PMDD)

 女性の約5%は、月経の1~2周間前に不機嫌さや緊張、いら立ちが見られる。

D.更年期うつ病

 退行期うつ病とも呼ばれるが、この診断は今使われていない。そもそも根拠がない。

(3)うつと躁に伴う様々な障害

 うつ病や双極性障害が単独で起こることは稀である。特に双極性障害は少なくとも他に1つは精神疾患を伴う。

A.物質乱用

 双極性障害とアルコールや薬物との乱用は広く見られる。アルコールが焦燥感を和らげ、覚醒剤などが多幸感を維持・強化してくれる。物質乱用がなかなかやめられないとき、その背景に気分障害が隠れているのかもしれない。

B.摂食障害

 摂食障害には、神経性無食欲症(拒食症)と大食症(過食症)、むちゃ食い障害がある。うつ病になって、それから大食症になり(食事しているときは、不安を感じないため)、さらに無食欲症と大食症の混ざった症状になるケースも多い。

C.不安障害・パニック障害

 不安を訴えて診察を求める人は、ほぼ全員何らかの気分障害を抱えている。不安がうつ病の初期症状であり、うつ病の約60%は不安症状を示す。パニックも同様。

D.強迫性障害

 自分では考えるつもりがないのに、どうしても頭の中からいなくならない思考を強迫観念という。強迫観念は、多くの場合、不快でおせっかいなものとして受け取られる。また、理屈に合わない行動を繰り返そうとする衝動を強迫欲動という。強迫欲動を行動に移さずに入ると、不安が増す。もともと強迫性障害(OCD)には、気分障害が伴うことが多い。

E.補足

 双極性障害とADHDは、遺伝的に共通する部分が多く、見分けが難しい。どちらも怒りっぽく(双極性障害の方が暴力的なかんしゃくを起こしやすい)、動きが止まらず、衝動的で、注意散漫になる。双極性障害とADHDの両方診断されることもある。双極性障害は、エピソード的・循環的な性質を示すのに対し、ADHDは、継続的・慢性的な経過を示すが、思春期前に区別することはほとんどできない。

3.うつ病の仮説

(1)古典的な精神分析仮説

 うつ病は、子ども時代に親からの愛情と肯定を求めながら得られなかったことに対する失望、そして親を幸せにできなかったという挫折に基づいている。その結果、次の感情が生じることになる。

 親が愛情を向けてくれなかったのは、自分の無能さが原因にあると考える。低い自尊心、罪悪感、恥辱感などが生じ、認められそうな理想や褒められそうな目標は絶対に達成できないと思い、それが大人になってからうつ病発症のきっかけになる。虚しさと寂しさを埋めてもらうことを期待し、夢見るが、その気持を全部まとめて恥と感じる。そして、自分が満たされないことに怒りが生じる。当然、その怒りは親イメージに向けられ、その結果、人間関係に対する失望と同時に過度の期待、そして葛藤に結びついていく。

(2)認知行動療法の仮説

 うつ病は、自己や他者、今後のことについて本人の中に自動的に生じる疑問の余地のない過程や思考の結果であるとする。

4.心理療法で必要なこと

 クライエントを支え、暖かく、導く態度を取ることが大切である。暖かく、誠実で、包容力があり、クライエントのこころの痛みへの理解を示せるセラピストが、一番クライエントのためになる。