臨床心理学にいる

臨床心理学や犯罪心理学についてのあれこれ

アルコール依存症とは


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1.アルコール依存症

アルコールは、リラックスした気分や酩酊の心地よさ、人付き合いのツール、酒に伴う楽しい雰囲気などのために行われる。しかし、いつしかそれが形骸化し、飲むことだけが目的になる。酒を飲まなければならないとの強迫観念に囚われ、不快なことや苦痛なことがあると過剰な飲酒に逃げ込もうとする。このままではまずいと薄々気づきながらも自分に嘘を付き、正当化するために飲酒を続けることになる。

アルコール依存症は、飲酒に起因する健康問題や社会問題が、個人に積み重なった状態のことである。診断には通常ICD-10(分類コード:F10.2)が用いられる。以下の6項目のうち、通常、過去1年間のある期間に以下の3項目を満たす必要がある。

  1. 飲酒に対する渇望
  2. 飲酒のコントロールの喪失
  3. 離脱症状
  4. 耐性の増大
  5. 飲酒中心の生活
  6. 問題が起きているにもかかわらず飲酒する

臨床症状として重要なのは、飲酒行動の異常さである。コントロール障害と表現され、その典型は常に飲み続ける。仮に長期間断酒したとしても、飲酒すればすぐにもとに戻ってしまう。

離脱症状は身体依存の証拠とされ、軽度から中等度の症状では、手足の震え、発汗、不眠、吐き気、嘔吐、下痢、心筋梗塞、不安等の自律神経系の症状や精神症状が見られる。重症になると、禁酒1日以内に離脱けいれん発作や飲酒2〜3日以内に振戦せん妄などが見られるようになる。

心理的な特徴は、嘘や過小評価が特徴で、否認や自己中心性が目立つことである。アルコール依存症を予測する典型的なパーソナリティはないものの、基本的には自我が脆弱でなかなか自尊心を保つことができず、飲酒によって多少なりとも自分を受け入れることができるようになる。そういう意味では、自尊心や感情調整、セルフケアの能力に問題があると考えられ、そもそも飲んでもやっていられないが、飲まなきゃもっとやっていられないといえよう。


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2.アルコール関連障害

アルコール依存症は、下記の症状のもととなる。

① 振戦せん妄
アルコールを中断して2〜3日後に離脱症状として生じる。1週間続き、深い睡眠を経て回復することが多い。全身の粗大な振戦が主症状で、発熱や発汗、頻脈などの自律神経症状が伴う。精神症状には、幻視、意識混濁、興奮、不安、せん妄などがある。

② アルコールてんかん
ほとんどが大発作である。離脱のときに生じることが多い。

③ アルコール幻覚症
主症状は幻聴である。飲酒をやめるとなくなるが、長年続くこともある。

④ アルコール妄想症
慢性の妄想状態で、被害妄想が多い。

⑤ うつ状態
うつ状態が合併することがある。

⑥ 嫉妬妄想
激しい病的な嫉妬が続く。

⑦ アルコール性コルサコフ症
長期間の大量飲酒によってコルサコフ症状をきたすことになる。振戦せん妄から移行することが多い。アルコール性の脳症であり、もう一歩進むとウェルニッケ脳症になる。


悪魔憑き


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1.悪魔憑きとは

悪魔に憑依され、支配されているという幻覚・妄想のこと。悪魔体験に関連する病態を総称して悪魔症ともいう。ゼグラ(1895)によると、次の3つに分類される。

① 外的悪魔憑き

悪魔は外から嫌がらせをする(≒迫害不安)。

② 内的悪魔憑き

悪魔は中にいて身体を支配する(≒憑依妄想)。

③ 真正悪魔憑き

自分自身が悪魔であると感じている(≒化身妄想)。

基本疾患は多様だが、基本的には被害妄想の一種であるため統合失調症との親和性が強い。中世ヨーロッパにおける精神障害の主流を占め、魔女狩りの対象となった。日本の場合は、犬神憑き、キツネ憑きなどに姿を変える。

(1)犬神憑き


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西日本の特に四国地方で見られた現象。犬神筋または犬神統(いぬがみとう)と呼ばれる家系の人が、犬神という小動物を駆使して害を与えると信じられていた。取り憑かれた人は、急激な人格転換が生じ、二次人格を呈することになる。二次人格は犬神筋の人とそっくりな振る舞いをするのが特徴で、通常、数時間ないし3〜4日間で健忘を残して回復する。

山村の閉鎖的な人間関係を背景に、犬神筋の人々との争いや慢性的な葛藤などの心因が発病契機とされる。宮本忠雄は、日本語の構造や日本人に他者に融合して自我感を薄めていく傾向が、憑依体験に親和していると述べている。


MMPI(Minnesota Multi phasic Personality Inventory:ミネソタ多面人格目録)

MMPI




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1.MMPI(Minnesota Multi phasic Personality Inventory:ミネソタ多面人格目録)とは

MMPI(は、ミネソタ大学のハサウェイとマッキンレイによって作成された心理検査である。オリジナルは566項目、日本版では550項目の質問から構成されている。

質問項目は、当時の問診内容や医学的な教科書、各種の性格検査などから選ばれたもので、正常者群とそうでない群との間で項目分析を行い、有意差の認められた項目だけが集められている。もともとは、クレペリンによる精神病の分類をもとに、精神障害の種類と程度を把握するために作成されたものであるため、経験的にいけそうな質問項目が選ばれている。


2.特徴


基本的には「当てはまる」「当てはまらない」のどちらかを回答するが、どうしても決められない場合のみ「どちらでもない」を選択する(その際、10個以下にするように教示する)。

  • 回答様式:3件法
  • 項目数:550項目
  • 検査時間:90分程度、集団検査可能
  • 適応範囲:臨床方面が中心
  • 個人的なコメント:項目数が多いこともあって、途中でうんざりする検査。最後の方は面倒くさくなって適当に回答しがち。良くも悪くも、理論的な背景がない上、色々な指標がまんべんなく詰め込まれているという意味で、特盛幕の内弁当的な心理検査という印象を受ける(…自分としては)。


3.2つの尺度(妥当性尺度と臨床尺度)


MMPIは、人格特性を捉える臨床尺度と、被験者の意識的・無意識的な歪みを把握する妥当性尺度により構成されている。


4.4つの妥当性尺度



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妥当性尺度とは、被験者の回答が歪曲されていないかなどを見極め、補正するための尺度である。検査に対して、どのような取り組み態度であったのかを調べる。まず最初に妥当性尺度によってテスト態度が見られ、次にMMPIの中核である臨床尺度が検討されることになる。

(1)?尺度(The Question Score)

疑問点。「どちらでもない」と回答した数で、多いと信頼度が落ちる。防衛的か、優柔不断か。抑うつ状態などでも得点は高くなる。

(2)L尺度(The Lie Score)

虚構点。社会的望ましさを調べる尺度。良い格好しいかどうか。実際よりも自分をよく見せようとする傾向が反映される。ヒステリー性格の人はこの傾向をしばしば示す。

(3)F尺度(The Validity Score)

妥当点。通常では起こり得ないような内容に対して、「はい」と答える頻度を調べる。被験者の不注意、質問内容の理解不足、検査への非協力的な態度をチェックする。抑うつ状態や統合失調症などでも高くなる。

(4)K尺度(The K Score)

修正点。L点やF点と同様に検査態度を測定する尺度だが、他の妥当性尺度よりも微妙な内容を含み、独特な歪曲傾向を検出しようとする。また、診断上の精度を上げるため、各尺度の粗点にK点の粗点を適当な比率で加え、修正粗点とする。


5.10の臨床尺度


MMPIの質問項目は、精神医学的な病理群と健常群とを弁別できるかどうかによって選ばれている。その質問内容を病理内容別に分類したのが臨床尺度である。被験者には、どのようなパーソナリティの特徴(病理など)があるのかを明らかにする。

(1)第1尺度:心気症尺度(1,Hs)

些細な身体的・心理的な症状を意識し、過度の懸念と不安を持つ傾向を測定する指標。どうでもいいことを気にして、勝手に不安になるかどうか。高い場合は、直面する問題の解決方法が未熟で、そこから生じる不安が身体症状へと姿を変えて出現する。ヒステリー性格、ヒポコンドリー性格など。低い場合は、身体的・心理的なことに鈍感か、抑圧していることなどが想定される。

(2)第2尺度:抑うつ性尺度(2,D)

抑うつ状態を測定する指標。何かと鬱々しやすいかどうか。高い場合は、活動水準が低下し、やる気がなく、心配性で、自信がない。興味関心の幅も狭い。また、D尺度は、Hs尺度やHy尺度とともに、神経症的反応傾向の選別にも用いられる。

(3)第3尺度:ヒステリー尺度(3,Hy)

ヒステリー性格を測定する指標。高い場合は、精神的に行き詰まりを感じると逃げ出し、無意識のうちに身体症状に転換する。未成熟で、欲求不満耐性が低い。性格的には、社交的で、明るく朗らかだが、心配性で、派手好き、見栄っ張り、自由気まま、思い込みやすいという特徴を持つ。

(4)第4尺度:精神病質的偏奇(4,Pd)

無責任て自分勝手、反社会的な行動に走りやすい傾向を測定する指標。快楽原則に従い、現実に踏みとどまることができない。高い場合は、情緒的な反応性に欠き、思いやりがなく、治療も続きにくい。反社会的な行動に走るだけでなく、病的な興奮や抑うつ状態にも突入したがる。

(5)第5尺度:性度尺度(5,Mf)

興味がどの程度男性的か、女性的かを測定する指標。男性が高い場合、感受性が強く、理想主義的で、対人関係では依存的・受動的な傾向が強い。低い場合は、自然科学やスポーツに興味を持つ。女性の場合は、男性の高低と逆のことがいえる。

(6)第6尺度:パラノイア尺度(6,Pa)

疑り深く、敵意を向けがち。過度の感受性と勘ぐり、猜疑的傾向を測定する指標。極端に高い場合は、過度に敏感で、猜疑的で、関係妄想・被害妄想・好訴妄想などに結びつきやすい。性格的には、悩みが多く、敏感、自信がなく、感情的で、依存的といえる。

(7)第7尺度:精神衰弱尺度(7,Pt)

不安、恐怖、強迫観念を測定する指標。高い場合は、軽度の抑うつ、過度の悩み、自信欠如、注意散漫、強迫的などが想定される。

(8)第8尺度:統合失調症尺度(8,Sc)

自閉的あるいは偏奇した思考や行動を測定する指標。主観的で、自分だけの世界に閉じこもりがちになり、現実世界から引きこもる。そのため、特異なことへの関心や協調性の乏しさ、疎通性のなさなどが特徴とされる。

(9)第9尺度:軽躁性尺度(9,Ma)

落ち着きがなくて衝動的など、活動水準の高さを測定する指標。高い場合は、多弁、社交的、衝動的、落ち着きがない。魅力的であるが、まとまりに欠け、注意散漫で、傍若無人で、自己中心であることも。

(10)第0尺度:社会的向性尺度(0,Si)

もともと臨床尺度に含まれていなかったが、一般的に使用されることとなったためコード0とされ、基礎的な尺度に加えられた。高い場合は、内気、無口、引っ込み思案などの内向性を示し、低い場合は、社交的、活動的、野心的などの外向性を示す。


6.解釈方法


妥当性尺度によって被験者のプロフィールに示される特徴の信頼度を確かめた後、臨床尺度のプロフィールパターンから人格特性を推測する。その後、それぞれの項目に対する回答の独自性や、過去の資料、生活史などの情報から人格像を見立てることになる。

プロフィールパターンには、以下の種類がある。

  • 逆V字型:急性の精神病などの可能性。
  • 転換V:身体表現性障害の可能性。
  • 精神病V:統合失調症や妄想性障害の可能性。
  • スカーレットオハラV:他者を誘惑して振り回す傾向。
  • 2数字コードタイプ:2つの高得点尺度の特徴から解釈する。3文字や4文字コードタイプも存在する。
  • 境界性人格障害の可能性:臨床尺度全体が70点以上は境界性人格障害が疑われる。


7.補足


質問項目が多すぎて時間がかかる。質問内容が古い。各臨床尺度別では診断の妥当性が低いなど、心理測定学的に信頼性・妥当性への疑問が残されている。