臨床心理学にいる

臨床心理学や犯罪心理学についてだらだらと書き綴るサイト。

放火犯

1.火の魅力



 火は人間に興奮を呼び覚ますものであり、火を見て興奮するのは万人に共通する感覚である。「家事と喧嘩は江戸の華」という言葉もある。柳田国男の「火の昔」には、過去の日本人にとって火がいかに喜ばしく、美しいものであったかについて考察されている。

 従来、農村型犯罪とされてきた近隣縁者に対する恨みの放火は、不満の表出という都市型犯罪へと変更し、農村部での放火犯の形態も、都市型放火の特徴を併せ持った複合型に変化している。

2.放火の種類

(1)えん恨報復型(対特定個人)

 強いえん恨、敵意、逆恨みなどを動機とし、確実に火がつくものを準備した上で犯行に及ぶ単一的な放火。犯人と被害者の関係は、比較的密接な場合が多い。放火の範囲は、被害者に対するえん恨等の度合いによって異なる。特に男女関係のもつれによるえん恨の場合は、痴情型ともいわれる。

(2)不満・発散型(対不特定多数)

 都市型に多い連続放火。不満やいらいらの発散が当初の動機であり、次第に愉快犯的な動機へとシフトする。犯人と被害者の関係は希薄であることが多い。家屋全焼を目的とするものではないため、人の住んでいない建物や自動車を狙う。

(3)副次型

 放火が主な目的ではなく、窃盗などの犯行の隠蔽や窃盗がうまくいかなかった際の憂さ晴らしのための放火などが該当する。当初から犯行を準備することは少ない。犯人と被害者との面識はなく、対人関係は希薄で連続放火に繋がりやすい。

(4)利欲型

 保険金詐欺を目的とした単一的な放火。犯人自身が自分の所有物に放火することが多い。計画的であり共犯者とともに行われる。

3.動機と意味

(1)恨みや怒り(報復のため)

 恨みや怒りから相手の生命や財産を脅かし、恐怖心を与えるなどして報復を図ろうとしたもの。家庭や学校、職場などにおいて叱責されたり、拒否されたりしたことから自宅や学校、職場に放火するといった葛藤に起因するものがある。異性に対する嫉妬から放火に及ぶケースもある。

(2)憂さ晴らし

 失恋、失職、家庭内葛藤などで不満状態にある者が、何の恨みもない人の家屋などに放火するもの。「憂さ晴らし放火」とか「八つ当たり放火」といわれる。自棄的な気分から場当たり的に放火に及ぶものと、すっきりするといった開放感から気分発散の手段として放火するものがある。

(3)えん世気分(自殺企図)

 自殺企図では、自分の身体に直接ガソリン等を振りかける場合と、家屋などに放火する場合がある。また、家族を巻き込み、無理心中の形をとるものも少なくない。

(4)いたずら気分

 火を見たり、消防車を見たいために放火するものや、火事騒ぎは他人が困ったり驚いたりするものが面白くて放火するもの。うだつの上がらない現実を払しょくし、倒錯的な手段で万能感を得ようとする。

(5)精神障害(放火病)

 精神障害としての放火、すなわち放火病の概念を提唱したのは、19世紀の前半ドイツのヘンケである。ヘンケは、それより以前のクラインの年報やプラートナーの鑑定書に見られる放火の事例が思春期の少年、特に少女に多いことに着目し、思春期の発達の障害という身体的原因に基づく火に対する快感と放火への傾向があるとした。後日、否定。

(6)その他

 犯行の隠滅や犯行の容易化(火事騒ぎに乗じて窃盗するために放火するなど)、逃走、保険金詐欺、称賛獲得(初期消火に加わることで称賛を得ようとする)、性的動機(性的快感を得るために放火するもの)なども挙げられる。