臨床心理学にいる

臨床心理学や犯罪心理学についてだらだらと書き綴るサイト。

殺人

1.殺人の類型



 生命犯とは、殺人などの犯罪を行ったものである。主なタイプは下記の通り。

(1)激情殺人

 けんか、口論など、その場の状況によって怒りの感情が制御できなくなり、殺人に及ぶ。被害者は見ず知らずの人で、たまたま居合わせた場合が多い。

(2)葛藤殺人

 邪魔者を排除するための殺人で、程度の差はあるものの葛藤や不満を抱え、それがある時点で限界点を超えて殺人に至る。愛憎の葛藤による殺人、家族間の葛藤による殺人などが含まれる。

(3)隠蔽殺人

 犯行を隠蔽するための放火殺人や、犯行を暴露されることをおそれて共犯者を殺害する場合など。立場や地位が危うくなるとき、自分を守るために行われる。サスペンスドラマによく登場する。

(4)利欲殺人

 金銭や物を得るための殺人で、保険金目当ての殺人や身代金目当ての誘拐殺人、強盗殺人が代表的なもの。いずれの場合も、金銭や物への欲求が先行した自己中心的な殺人で、前科前歴のある犯罪傾向の進んだものが多い。

(5)信念による殺人

 民族紛争や宗教闘争など自己の義務と確信して計画的に行われる殺人や、政治的暗殺など。日本ではほとんど見られない。

(6)嘱託殺人

 医師などが人道的主義的な信念に基づいて安楽死などであり、医師に限らず、重篤な障害を持つものに対する殺人や自殺の幇助もこれに当てはまる。

(7)快楽殺人

 殺人の際、加害者が性的興奮を感じ、それを目的におこなわれるもの。その昔R.Senf(1911)は、快楽殺人を

  • ①被害者を性的に攻撃することによって性欲の満足を得て、攻撃行為そのものが性交の代償であって性交自体は行われない典型的な型、
  • ②殺人や死体損壊が性的興奮を高める性欲過多型、
  • ③被害者の苦悩を見て性的な満足感を得る苦痛嗜愛型

の3つに分類している。
 死体損壊を伴うことが多く、性欲・所有欲・攻撃欲求が相互に融合しているものとされる。代表的な例としては、切り裂きジャックやキュルテン、ゲンテなど、日本では小平義雄、後藤三郎、高橋正彦など。

(8)大量殺人

 一度に多数の被害者を出す同時型殺人と、連続して殺人を反復する非同時型殺人がある。

A.無差別大量殺傷

街中や会社、学校、飲食店などの工場の場で、そこで居合わせた人無差別に殺傷する。海外では銃、国内では刃物が用いられ、犯行に先立って大きな挫折や生活上の困難に遭遇し、将来に絶望していることが多く見られる。都井睦雄による津山30人殺しなど。

B.犯罪型大量殺傷

 強盗などに居合わせた人や従業員を全員殺傷したり、暴力団の抗争において相手方を襲撃し、居合わせたものを同時に殺傷したりする。

C.家族対象大量殺傷

 自らの家族を同時に殺傷し、最後は自殺する。いわゆる一家心中、一家無理心中といわれるもの。比較的高齢(中高年)で前科がなく、定職に就いていて、自営業が多く見られる。生活上の問題から自殺を決意し、自殺後の家族のことを考えてその幸せのためには家族も一緒に殺害したほうが良いと「判断」し、順次殺害後に自殺を試みる。自分の万能感と罪悪感に耐えられず、家族を巻き込むことで倒錯的に自分の正しさにしがみつこうとする。

D.精神障害による大量殺傷

 精神障害による被害妄想などの妄想に導かれたり、幻聴に命令されたりして大量殺傷に及ぶ。深川通り魔殺人など。

E.非同時型殺人

 妄想性の精神障害に罹患し、妄想に導かれて連続殺人を行う幻覚妄想型や、自分自身の偏った信念によって特定の人間を殺害する使命型、人をサディステックに拷問したり、殺害したりすることに喜びを感じ、このような犯罪を熱望する快楽型などがある。

(9)精神障害からの殺人

 統合失調症や覚醒剤後遺症による妄想、酩酊やてんかんのもうろう状態での殺人など。