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抗うつ薬の種類 第一世代から第四世代まで

1.第一世代の抗うつ薬



 三環系抗うつ薬(1950年代〜)。

 古典的な薬で、自殺の手段に使える。1950年代後半にスイスの精神科医が偶然発見した。三環系という名称は、3つの環を持つ化学的構造に由来する。この薬は、神経伝達物質を作る細胞が、神経伝達物質を吸収(再取り込み)するのを阻害することで効果を発揮するものと考えられる。

(1)薬の特徴

 通常、第一世代の三環系抗うつ薬は、ノルアドレナリンの再取込み阻害作用によるものが多い。つまり、一度放出されたセロトニンやノルアドレナリンが、再び取り込まれることを阻害することで、間接的にセロトニンやノルアドレナリンを増大させる。ただし、アナフラニールに限ってはセロトニン再取込み阻害作用が大きく、その点SSRIと作用機序が似ている。

 重症例に効果的であるが、「抗コリン作用」や「抗ヒスタミン作用」などの副作用がすぐに現れやすい。抗コリン作用は、抗うつ薬がアセチルコリン受容体と結びつくと、心臓の動きの抑制、内臓の筋肉の収束、骨格筋の収束といった作用が出現する。具体的には、かすみ目、鼻閉、口の渇き、頻脈、便秘、排尿障害といった症状などである。また、抗ヒスタミン作用は、神経を鎮静させる抗ヒスタミン作用が出すぎるというもので、不安や焦燥感が強い場合にはプラスに働くが、マイナスに働くと眠気や倦怠感といった副作用に悩まされることになる。

(2)薬の種類

A. 総称名イミドール、一般名イミプラミン塩酸塩

 世界初三環系抗うつ薬。少し前まで抗うつ薬の市場を独占していた。

B.総称名アナフラニール、一般名クロミプラミン塩酸塩

 とりあえずまずはコレから的にファーストチョイスされることが多い。一番人気。

C.総称名トリプタノール、一般名アミトリプチリン塩酸塩

 最強の効き目の抗うつ薬。不安・焦燥感を鎮めるタイプ。利かない場合は、うつ病ではないのか、あるいは他の精神障害か。

2.第二世代の抗うつ薬

 四環系抗うつ薬(1970年代〜)。

 昔ながらの薬で、あまり使われていない。副作用ばかり気にしていたため、効果もそれなり。その名称が示すとおり、三環系抗うつ薬の分子構造にもう1つの環が加わったものである(実際には3つの環の中心部にもう1つの環が付加されている)。

(1)薬の特徴

 四環系抗うつ薬は、三環系抗うつ薬と異なり副作用は少ないが、その分、薬効的に劣る部分がある。そのためファーストチョイスとして用いられることは少なく、SSRIが開発された現在となっては、軽症のうつ病や高齢者のうつ病を除いて使われる機会はほとんどない。

(2)薬の種類

A.総称名ルジオミール、一般名マプロチリン塩酸塩

 四環系の割には薬効が比較的強い。

B.総称名テトラミド、一般名ミアンセリン塩酸塩

 最大の特徴は眠気。

C.総称名テシプール、一般名セチプチリンマレイン酸塩

 SSRIが効きにくいときに、ファーストチョイスされる。

3.第三世代の抗うつ薬

 SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)(1980年代〜)。

 脳内のセロトニンはシナプスの前細胞から放出され、シナプスの後細胞の受容体へと伝達される。このシナプスの隙間のセロトニンが少なくなると、うつ状態になると考えられていることから、SSRIでシナプスの前細胞にあるトランスポーター(再取込み輸送体)を塞ぐ(阻害する)のがSSRIである。こうすることによってシナプスの隙間のセロトニン量は結果的に(総量は変わらないものの見かけ上では)増加することになる。トランスポーターは、各モノアミンによってそれぞれ存在するが、SSRIはセロトニンのトランスポーターのみに選択的に作用するため「選択的セトロニン再取込み阻害薬」と呼ばれる。

(1)薬の特徴

 作用の発現が遅い。服用を開始してから実際の効き目が始まるまでに2週間程度(遅い場合だと1か月程度)かかり、その間は我慢して服用を続けなくてはならない。抑うつ気分が全面に出てくることになるが、三環系抗うつ薬に比べて、副作用は大きく軽減している。

 副作用は消化器系が特徴。おそらくセロトニンの受容体が消化器系にも存在するためと考えられている。症状自体は一過性である場合が多い。その他に性欲の減退、勃起障害、射精遅延、オルガズムを感じないなど性機能障害がある。これらはSSRIの服用を注意すると自然に消滅する。

(2)薬の種類

A.総称名ルボックス、一般名フルボキサミンマレイン酸塩

 抗うつ薬としての効果はいまいち。だから逆に好まれる。

B.総称名パキシル、一般名パロキセチン塩酸塩水和物

 日本国内でSSRI売上ナンバー1。60%のシェアをほこる。高価格で、強い効果。自殺を誘発する危険性がある(→決断力を高める)

C.総称名ジェイゾロフト、一般名セルトラリン塩酸塩
D.総称名プロザック、一般名フルオキセチン

 通称ハッピードラッグ。全世界医薬品売上第4位。

4.第四世代の抗うつ薬

 SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)(1970年代〜)。

(1)薬の特徴

 従来の第一世代、第二世代の抗うつ薬に比べると副作用が少なく、第四世代と呼ばれるSNRIだが、それでも副作用は存在する。使用初期に現れる不安、焦燥、神経過敏、気分高揚、眠気、不眠、頭痛、めまい、口の乾き、無気力、けん怠感などといった中枢神経系の症状である。

 SSRIとSNRIの違いは、その名称が示すように選択的作用する神経伝達物質(モノアミン)の違いにある。SSRIがセロトニンのみに選択的に作用するのに対し、SNRIはセロトニンとノルアドレナリンの2つに作用する。この違いはSSRIよりも作用の発現が早く、副作用が小さいといったメリットとなる。

(2)薬の種類

A.総称名トレドミン、一般名ミルナシプラン塩酸塩

 国内唯一のSNRI。

B.総称名イフェクサー、一般名ベンラファキシン塩酸塩

 SSRIに比べるとSNRIは平均5〜7日程度で作用する。人によって合う、合わないが強く出る。要するにSSRIに比べて弱い。

5.追記

 精神医療で薬物療法を占める割合が大きく、基本的に薬物療法は必ず行われる。

 現在の精神科治療は、1952年、クロルプロマジンの抗精神病作用の発見に始まるとされる。その数年前からクロルプロマジンは、交感・副交感神経の両方を遮断できる画期的な自律神経遮断薬として人工冬眠に用いられてきた。1957年には抗うつ薬のイミプラミンが、1961年には抗不安薬のクロルジアゼポキシドが立て続けに発見され、その後も次々と新しい薬が開発されるが、そのほとんどは上記3つの薬物の構造を少し変えた程度のものである。

 神経伝達物質の中でセロトニン(気分、認知、衝動、食欲)やノルアドレナリン(意欲、気力、活動、睡眠)の減少がうつを引き起こす大きな鍵を握るとされる。実感として「少し楽になった。」と感じるためには、4〜6週間かかる、じわじわ系の精神科薬といえよう。