1.非定型抗精神病薬の特徴
非定型抗精神病薬は、いくつかの精神伝達物質に対してより選択的に働き、ドーパミン受容体遮断作用だけでなく、セロトニン受容体をはじめとする様々な受容体に遮断作用を持つのが特徴である。現在の抗精神病薬の主流。
従来の定型抗精神病薬にあった錐体外路症状は非常に少なく、統合失調症の様々な状態に使用でき、処方を単純化できるというメリットがある。
2.薬の種類
(1)SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)
統合失調症の陽性症状から陰性症状まで様々な状態に使用できる。急性期の滅裂興奮状態から幻覚妄想状態、昏迷状態、緊張病性興奮状態、うつ状態、無為自閉状態など。躁、うつ、発達障害にも使う。一方で、副作用が意外とある。体重増加、倦怠感、高プロラクチン血症などである。
アメリカにおいて非定型精神病薬とは、セロトニン・ドーパミン拮抗薬(SDA)のことを意味しており、その処方の比率は約90%(2005年)にも達している。特にセロクエル、リスパダール、ジプレキサの3剤はアメリカにおける抗精神病薬のファーストチョイスとされる。
A.総称名セロクエル、一般名クエチアピンフマル酸塩
非定型精神病薬であり、多くのレセプターに作用することからMARTA(多元受容体標的化抗精神病薬)とも呼ばれる。
B.総称名リスパダール、一般名リスペリドン
抗幻覚・妄想作用。非定型抗精神病薬の中では最も陽性症状に効果があるとされる。
C.総称名ルーラン、一般名ペロスピロン塩酸塩水和物
純国産のSDA。薬価が安い。ただし、知名度が低く、海外での使用実績やエビデンスがないためほとんど使われていない。
(2)MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬)
MARTAは完全に和製英語であるため、最近では上記SDAの一種としてカテゴライズされている(こともある)。特徴はSDAと同じ。D2だけでなく、5-HT、α受容体、ヒスタミン受容体などに作用(色々なものに結合)する。陽性症状にも効果があり、リスパダールが駄目なときに使われやすい。
A.総称名ジプレキサ、一般名オランザピン
アメリカで1996年に発売し、最も使用されている薬。統合失調に対しては卓越した効果が認められる。
B.総称名セロクエル、一般名クエチアピンフマル酸塩
錐体外路症状が極少ないか、全くない。とはいえ、かなり高価。
(3)DDS(ドーパミン・システム・スタビライザー)
SDAの進化版が、DDSである。DDSは、ドーパミンが過剰に放出されているときには遮断薬として抑制的に働き、逆にドーパミンが不足しているときはドーパミン作動薬としてドーパミンを刺激する方向に働くという「ドーパミン作動精神系伝達を安定化する。」という特性に由来する。
A.総称名エビリファイ、一般名アリピプラゾール
大塚製薬開発。2006年に優れた治療効果をもたらす薬剤に送られる「プリ・ガリアン賞」受賞。ドーパミンの神経伝達が過剰なときは抑制し、低下しているときには促進する。セロトニンに対しても調整的に働くことがわかっており、統合失調症の陽性症状(妄想、幻覚、混乱、興奮)だけでなく、陰性症状(感情鈍麻、思考や意欲の減退)にも効果があるとされている。また、セロトニンの再取込みを阻害してシナプス領域のモノアミンを増加させることから、抑うつ症状や双極性障害の改善にも効果があるとされる。