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ウェクスラー成人知能検査

1.ウェクスラー成人知能検査とは



 成人用の個別式知能検査法。精神発達の遅れを鑑別するために作成されたビネー法が、成人には不十分であることから、1939 年、ペルヴュー病院のウェクスラーが「ウェクスラー=ペルヴュー知能検査」を開発した。ウェクスラーは、知能を「目的的に行動し、合理的に思考し、効率的に環境を処理する総合能力」と定義した。その後、問題項目やサンプリング上の欠陥を修正し、1955年に「ウェクスラー成人知能検査(WAIS)」に改名している。

 なお、検査結果は、その年齢の被検者の成績を同年齢群の者が獲得した平均得点と比較することによって知能水準を示す偏差値IQで表される。

2.知能検査(WAIS)

(1)下位尺度の意味

 3つの思考機能。

A.記憶・概念形成

 記憶と体験の体制化と蓄積に作用する。

B.注意・集中・予測

 現実の各状況において、個人が自らを選択的にどちらかへ方向付けるのに関与する。

C.視覚の体制化・視覚ー運動系の協応

 知覚過程及び、それが運動過程を方向付ける際に取る不可欠な役割に作用する。

(2)下位尺度の特徴

A.一般的知識

 記憶がどれくらい発達し、どれくらい機能するのかを見る検査。ここでの「記憶」は、機会的記名などを意味せず、発達の過程においで体験した言葉や事実、及びその相互関係が、自己の欲求・興味・感情等に作用することによって、その人独自の枠に取り込まれる種類の記憶である。このような記憶に基づく体験は、生まれつきの資質と幼少期の教育、文化の影響に基づく。そして、単なる単語問題よりも、体験の増加と学校教育によって改善されやすい性質を持っている。

 →知識欲、教育的な関わりとコミットの程度(→適応と制御)、資質などなど。

B.一般的理解

 判断力の検査である。ある状況をどの程度適確にとらえ、処理する力があるかを見ることができる。ここでの問いとは常に「どうあるべきか」という形で行われ、社会適応的な判断を求めるもので、常識的で、ありきたりな判断がどのくらいできるかが得点となって示される。判断とは、純粋に知的・論理的なものではなく、知性と情緒性の中間領域に位置づけられるがゆえ、情緒的に安定していると、よい判断が得られ、得点は高くなるし、逆に不適応を生じていると判断は悪くなる。

 →社会的な適応力、情緒的な安定度、学校教育の程度など。

C.算数問題

 基本的に集中力の検査であるが、集中の前提として注意力が必要となる検査。時間制限が、一般的には注意の集中をより強める。しかし、不安が生じると、注意・集中が妨げられ、得点の低下を招く。

 →集中力、注意力、不安(→不安になりやすい程度)

D.類似問題

 言語的な概念構成の機能を見る検査。どんな概念形成を行うかによって、その人の概念的思考めレベルを見ることができ、そこから思考における柔軟性の度合いを見ることができる。同時に、相互関係をどのように見ているか、自分を取り巻く世界とどのような関係を持っているかを知ることができる。概念思考のレベルは、具体的レベル、機能レベル、抽象レベルの3種に区分される。

 →抽象的思考のレベル、思考の柔軟性、世界と自分との関係性

E.数唱問題       `                   

 機会的な繰り返しで、注意力が良いと成績が良くなる。これは努力抜きの注意力を意味しており、それゆえ、一生懸命問題を覚えようとすればするほど、余分なものが入り込み、返って失敗してしまう。不安があるとこの種の注意力はたちまち落ちるので、潜在する不安の指標となることが多い。

 →不安の存在の指標、注意力、平常心

F.単語間薤

 記憶(一般的知識で述べた意味での)と概念形成及びその相互関係の程度を見るためのテストで、言語性下位検査の中心に位置づけられる。単語の意味を与えるという体験的文脈の体制化とその獲得に、思考機能としての記憶と概念形成の焦点があるためである。

 一般的知識は学校教育によって上昇するが、語彙の豊かさ、定義の正確さと細かさは、生まれつきの資質と幼少期の文化・教育環境の影響が大きく、後年における経験と教育では改善されない。幼少期に情緒的受容が許され、語彙についての豊か夸環境と適度な刺激があると、語彙は広く、かつ定義は確かになる。すなわち、豊かな情緒発達は、文化的なものへの意欲的な促進に役立つものであり、思考作用の情緒的側面が抑えられている人は、単語問題での得点が低くなる。ただし、知性化によって自己防衛する人は得点が高い。

 なお、単語問題の成績は総合知能と非常に相関が高いといわれ、また、種々の思考機能のうちで一度形成されるともっとも損傷を受けにくい面を示しており、シェーファーは分析の基本に単語問題をおいている。

 →体験の獲得の程度、思考と記憶の結びつき、・幼少期の環境の程度、情緒的側面

G.符号問題

 これは積み木、組み合わせと並んで、スムーズな視覚一運動の協応を要するテストである。前の2つとの差は、単なる模倣的・機械的な仕事であること、スピードが最も必要なので視覚一運動の協応と同じくらい集中力を見ることに役立つこと、符号と対照しながら欄を埋めて行くという最も運動面において複雑であること、学習効果が参加することなどであり、そこに特徴がある。

H.絵画完成

 視覚の体制化によって絵の本質を把握しなければならない点で、絵画配列と同じであるが、ここでは欠如部分を探すために注意の集中と慎重に焦点を決めていくことが必要である。したがって視知覚刺激を用いた注意集中力テストということができる(算数は聴覚刺激による)。

I.積木問題

 視覚ー運動の協応以前に、視覚の体制化による全体的なデザイン認知の後、そのデザインを構成するべき一つ一つの積木に視覚を分化させなければならない。それゆえ、その人の概念形成の様式と同じような思考過程をテスト遂行中に見ることができる。

J.絵画配列

 一枚一枚の絵を視覚的体制化によってそれぞれの本質を把握し、意味のある配列にするために、次にくるべき絵を予測しなければならない。それゆえ、視覚的体制化と同時に予測のテストでもある。日常において忘れられてはいるが、毎日意味をもつ出来事の連続を理解し生活するためにはつねに予測が必要で、この種の予期・予測力が見られる。

K.組合せ問題

 ここでは部分のみが与えられるので、よい成績を取るためには適切な予測力とスムーズな視覚ー運動の協応を必要とする。知覚的な体制化と予測がうまくいけば、動作はし発見されたパターンの繰り返しなので、さほど重要ではない。視覚的体制化の曖昧な大は、試行錯誤的に断片をつなぎ合わせていき、再体制化の後で視覚ー運動の協応を示して、テストを遂行することになる。