1.覚醒剤などの薬物を使うと身体に何が起きるのか
薬物依存の発症要因は、薬物乱用による脳内神経系の異常であり、乱用する薬物によって受容体が多少異なるものの、基本的には脳内報酬系と呼ばれる中枢の腹側被蓋野から辺縁系、特に側坐核に至るA10神経系に共通して異常が生じるとされる。このA10神経が刺激されると神経伝達物質であるドーパミンが分泌され、快情動が生じる。覚醒剤やコカインなどの興奮を引き起こす薬物(中枢神経興奮系)は、それ自体がドーパミンと同じ働きをするだけでなく、神経末端にあるドーパミントランスポーターにも作用し、ドーパミンの再取り込みを阻害することによってさらなる快情動を生じさせる。
しかし、長期にわたる薬物乱用は、脳内のドーパミンの生産量を低下させるだけでなく、神経伝達物質そのものも変化させる。不安や抑うつが収まらなくなり、その不安から逃れ、快感に浸るためにますます薬物乱用にしがみつくようになる。
覚醒剤の乱用は、脳の神経細胞に障害が出ると考えられている。覚醒剤が作り出す活性酸素により、神経細胞を構成している細胞体や軸索が萎縮・消滅し、思考や感情が障害されて幻聴や被害妄想などが出現する。これがさらにひどくなると、覚醒剤をやめても慢性的な幻覚・妄想が続き、無気力状態に至る。
2.薬物使用の古典的分類
(1)現実逃避型
無力感や劣等感に囚われ、覚醒剤による払しょくを図ろうとする。家庭、学校、職場などで無力感や抑うつ気分に悩まされ、覚醒剤によってそうした自分から逃れ、現実を消し去ろうとする。
(2)愛情欲求不満型
両親に対する根深い愛情欲求不満や家族葛藤を背景に、覚醒剤に逃げ場を求める。長年に渡る家族葛藤や親に愛されていないことへの不満をつのらせ、薬物の繋がりを拠り所としようとする。
3.覚醒剤などの薬物を使う意味
アルコール依存症の人とは異なり覚醒剤などの薬物を使う人は、不安定な子ども時代を送り、自己処方(self-medication)として薬物を用いようとする。多くの場合、親などの養育者との葛藤や抑うつが薬物乱用の引き金になる。
現在の精神分析は、薬物などの嗜癖行動を自己破壊衝動ではなく、セルフケアの欠損を反映するものと理解する。この欠損は、幼少期初期の愛着障害の結果であり、ある意味、自ら薬物らを乱用することによって自尊心を満たし、対人関係における「欠損」を埋め合わせようとする必死の試みといえる。そういう意味では、「酒を飲まなきゃやっていられない。」のと同じように、「吸わなきゃやっていられないし。」、「打たなきゃやっていられない。」といえるかもしれない。