臨床心理学にいる

学問としての臨床心理学や犯罪心理学について、日々徒然と書いているサイトです。

薬物使用の生理的機序と古典的分類

1.薬物使用の生理的機序



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薬物依存の発症要因は、薬物乱用による脳内神経系の異常であり、乱用する薬物によって受容体は異なるものの、脳内報酬系と呼ばれる中枢の腹側被蓋野から辺縁系、特に側坐核に至るA10神経系に共通して異常が生じる。このA10神経が刺激されると、神経伝達物質であるドーパミンが分泌され、快情動が生じる。覚醒剤やコカインなどの興奮を引き起こす薬物(中枢神経興奮系)は、それ自体がドーパミンと同じ働きをするだけでなく、神経末端にあるドーパミントランスポーターに作用し、ドーパミンの再取り込みを阻害することによってドーパミン量を増大させ、神経伝達を亢進させて快情動を生じさせる。 しかし、長期にわたる薬物乱用は、脳内のドーパミンの生産量を低下させる上、脳内伝達物質そのものが変化し、不安や抑うつを引き起こす。その結果、通常の活動では得られなくなった快感などの報酬効果を求めたり、あるいは、不安な精神症状を緩和したりするため、更に薬物乱用を繰り返すようになる。

覚醒剤の乱用は、脳の神経細胞に障害が出ると考えられている。覚醒剤が作り出す活性酸素により、神経細胞を構成している細胞体や軸索が萎縮・消滅し、思考や感情が障害され、幻聴や被害妄想などが出現する。これがさらにひどくなると、覚醒剤をやめても慢性的な幻覚・妄想が続き、無気力状態に至る。

つまり、こういうことである。

薬物を使用すると脳内でドーパミンが過剰に分泌され、とても肯定的な思いでこころが満たされたように感じる。現実が嫌で、つらければつらいほど、この極めて稀なこころの状態を求めて、何度も何度も薬物を求めるようになる。薬物だけは自分を傷つけないと感じる。しかし、脳そのものは、段々とこの異常な状態をおかしいと感じ始め、指令を発してドーパミンの量を調整しようとする。同時に、脳がドーパミンの多さにの慣れてしまう。多いけど、それが普通になってしまう。この状態が続くとドーパミンは不自然に枯渇した状態に陥るだけでなく、ドーパミンがまるで感じられない状態に、不安や抑うつなどの否定的な感情がこころの中に溢れ出すようになる。そわそわとして落ち着かず、勘ぐりや幻聴が収まらない。肯定的なこころ求めているにも関わらず、否定的な感情が湧いてくる現実に、薬物の量を増やすことによって対処しようとするが、逆にそれがさらなる否定的な感情を強めることにつながって、もはや自分ではその悪循環を断ち切れなくなってしまう。


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2.薬物使用の2つの古典的分類


(1)現実逃避型

無力感や劣等感に囚われ、覚醒剤による払しょくを図ろうとするタイプ。家庭、学校、職場などにおいて、自己効力感を感じることができず、無力感や抑うつ気分に悩まされて、いわば、覚醒剤によってそうした自分をせつな的にリセットしようとする。

(2)愛情欲求不満型

両親に対する根深い愛情欲求不満や家族葛藤を背景に、覚醒剤に逃げ場を求めるタイプ。長年に渡る家族葛藤や親に愛されていないことへの不満をつのらせ、不良仲間との関係を拠り所にしようとし、そのうちシンナー吸引や覚醒剤乱用に至る。不遇な家庭環境を基盤に慢性的な非行・犯罪に至るケースが多く、今となっては古典的ともいえる。


3.その他


(1)被害者なき犯罪(のように見える。)

薬物によって、結果的に重大な犯罪を起こすことはあるが、それを目的に薬物を使用することはほとんどない。慢性的な依存に至るのは結果であって、本人自身はそれを望んでいるわけではない。また、一見したところ直接的な被害者がいないことが抵抗感を生じさせる。

(2)薬物乱用が犯罪とされる理由

薬物乱用が犯罪である理由は、肯定的で、満たされた気持ちになれる薬物(すなわち、報酬効果を有する薬物)が、人間の高次機能にさまざまな障害をもたらして社会生活を送れなくすることや、薬理作用によって精神機能が異常をきたし、現実と妄想の区別があいまいになって犯罪に及ぶ危険性があること、薬物の入手のために社会生活が維持できなくなる可能性があることから法律で禁止されている。基本、どの国も一緒。